美味しんぼ 福島の真実編 5 を読んで

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美味しんぼ 福島の真実編 5 を読んで

真実

美味しんぼ「福島の真実」では "真実" というキーワードが何度も登場しますね。

ただ、そこで語られていることにこの "真実" という言葉が使われることに、どことなく違和感を感じるようにも思いました。

 

今回の話の中で語られている "真実" と言えば

  • 朝市の場を使って被災者に全国からの支援物資を配給。そしてそれを利益を求めず支える被災者や遠方からの人々。
  • リヤカーを使って、仮設住宅一軒一軒を訪問販売。自殺や孤独死を防止する狙いもあるのだとか。
  • 警戒区域が敷かれて立ち入り禁止。これは国土を失うことにも等しい。
  • 警戒区域内のお墓に入れず、その手前に手向けた花。

そのようなことが事実として、物語の中に淡々と記されています。

このようなこと、きっと被災地では当たり前な姿なのでしょう。それでも神奈川に住んでいると、このようなことが今や一切伝わってきません。この物語が描かれている 2011 年 11 月にも果たして聞こえて来ていたかどうか。

 

この "事実" を "真実" と語る。

もしかして作者の雁屋さんも、取材して初めてその実情を知ることができたのかもしれないですね。それとも、この事実とは違うことを事実として、取材で訪れる前の雁屋さんは捉えていたのか。

"真実" という言葉は、"事実" の裏に隠された何かを言うときに使われる言葉のような気がします。

 

真実…

そう思って改めてみたとき、たしかに自分自身にはここで語られている出来事が、知っているようでちゃんと知っていなかったことのようにも思えます。

足を運んでみないと知り得ない世界、それはそれで当たり前のことですけれど、このような現状がもう少し普段を生きている人たちの耳にも届けばいいのですけれどね。少なくとも東日本の人々の記憶から薄れて行くには、まだちょっと早すぎます。

 

物語の途中に挿入された、当時の新聞の情報が重たいですね。

  • 県内全原発 10 基廃炉に(福島知事、東電・国に求めていく考えを表明)
  • 年 20 ミリシーベルト未満「妥当」
  • 原発事故「収束」宣言
  • 渡利地区の米からセシウム
  • 伊達市地区規制値超の米
  • 放射性物質の食品規制強化

2011 年末頃から 2012 年初頭にかけての記事ですけれど、それから 1 年、いったい何が変わったのでしょう。

あれから 2 年が過ぎた今、福島も、宮城も、他の被災地も、どのくらいまで歩みを進めているのでしょう。

 

美味しんぼ「福島の真実」編 #5

著者 雁屋哲
掲載紙 週刊 BIG COMIC スピリッツ